給食部門の問題を考えるとき、食種が多い、作業工程が複雑である、人員配置が適切ではないといった内部の問題に目が向きやすい。しかし、給食経営を大きく左右しているのは、部門内の努力だけでは変えられない外部環境である。
その外部環境を、政治、経済、社会、技術の四つに分けて整理する方法がPEST分析である。給食を取り巻く変化を一つの「厳しい状況」として捉えるのではなく、何が、どのように影響しているのかを分けて考えることに意味がある。
政治――制度と公定価格の影響
病院給食は、入院時食事療養費という公定価格の中で運営されている。食材費や人件費が上昇しても、施設が自由に価格へ転嫁することはできない。制度改定による増額は重要であるが、その時期や金額を給食部門が決めることはできない。
さらに、診療報酬、介護報酬、食品衛生、働き方、環境対策などの制度変更も運営に影響する。制度改定を待つだけでなく、変更された場合と変更されなかった場合の両方を想定しておく必要がある。
経済――物価と賃金の上昇
食材、人件費、電気、ガス、水道、厨房機器、建築費、物流費は、給食部門の意思とは関係なく変動する。特に、食材価格と最低賃金の上昇は、毎日大量の食事を提供する給食経営へ直接影響する。
経済的要因を見るときは、「物価が上がっている」で終わらせてはならない。食材費が一食当たりいくら上昇したのか、人件費の増加が年間収支へどの程度影響するのかを試算する。外部環境の変化を、自施設の数字へ置き換えることが重要である。
社会――働き手が減ることを前提にする
労働者人口の減少によって、給食現場では人材の確保が一層難しくなる。病院や高齢者施設だけでなく、外食、食品製造、小売、物流など、他産業との人材獲得競争も続く。
これまでと同じ人数を集め、同じ食種数、同じ献立数、同じ作業工程を維持することは難しい。一方では高齢化が進み、病態や嚥下機能に応じた対応の需要は高まる。必要なサービスは増えるが、担い手は減る。この二つの変化を同時に考えなければならない。
技術――機器ではなく仕組みを変える
人手不足への対応として、厨房機器の自動化、給食管理システム、温度管理、セントラルキッチン、完調品、再加熱カートなどの技術が広がっている。
ただし、新しい機器を導入するだけでは運営は変わらない。多品種少量生産や複雑な作業工程をそのまま残せば、技術の効果は限定的である。食種や献立の整理、自家生産と外部生産の役割分担、共同購入や共同生産まで含めて、給食システム全体を組み替える必要がある。
分析を行動へつなげる
PEST分析は、外部環境の厳しさを並べるためのものではない。政治、経済、社会、技術の変化が、部門収支、人員、生産性、安全性へどのような影響を与えるのかを整理し、対応の優先順位を決めるために使うものである。
公定価格や労働者人口は自ら変えられない。しかし、食種、献立、生産方式、調達方法、人員配置は変えられる。外部環境を理由に行動を止めるのではなく、変えられない条件を前提として、変えられる部分を見つけることが重要である。
外部環境は一度分析すれば終わりではない。制度改定、物価、採用状況、技術の進歩を定期的に確認し、計画を見直す必要がある。給食部門が将来も食事提供を続けるためには、厨房の中だけを見るのではなく、その外側で起きている変化を経営課題として捉えなければならない。
※HFSA News Letter 第20号の内容をもとに、普遍的なコラムとして再構成。
窪田 伸
株式会社ミールシステム 取締役会長
一般社団法人ヘルスケアフードサービスシステム協会 代表理事
1976〜2005年株式会社セントラルユニに勤務。
1980年〜1982年宮川フードサービス研究所に出向。
1994年に国内初のクックチルシステムをJA札幌厚生病院に納入。
1998年には国内初のニュークックチルシステムを柳原病院に納入。
2004年国内最大級のニュークックチルシステムを福井県立病院に納入。
2005年株式会社ミールシステム設立、代表取締役に就任、2018年同社取締役会長に就任。
2020年一般社団法人ヘルスケアフードサービスシステム協会 設立、代表理事就任。
2014年〜2022年一般社団法人日本能率協会「HOSPE×Japan」病院・福祉給食セミナーコーディネーター
2014年〜2016年一般社団法人日本フードビジネスコンサルタント協会理事
2019年〜2020年ヒトタ食品株氏会社取締役
