病院給食が厳しい理由を、人手不足や食材料費の上昇だけで説明することはできない。現在の給食部門には、複数の問題が重なっている。一つずつを別の問題として扱うと全体像が見えず、部分的な対策を繰り返すことになる。まず、五つの問題を一枚の構造として捉える必要がある。
給食部門を圧迫する五つの問題
第一は、給食料報酬、すなわち入院時食事療養費の抑制である。食材料費や人件費が上昇しても、収入を自由に変えることはできない。一定の収入が確保される一方、増収には限界があり、食事を提供するほど赤字が拡大する構造も起こり得る。
第二は、働き手不足である。労働者人口が減少する中、早朝から夜まで一年中稼働する給食現場は、人材の確保が一層難しくなる。採用だけで従来の人員体制を維持する発想には限界がある。
第三は、運営コストの上昇である。食材料費、人件費、光熱水費、委託費、建築費、設備費まで上昇している。外部環境が変わっている以上、従来と同じ方法を続ければ収支は悪化する。
第四は、食事の多様化・個別化である。病態や嚥下機能に応じた対応は、治療を支えるうえで重要である。しかし、食種、献立、使用食材、調理工程が増えれば、多くの人手と費用が必要になり、作業管理も複雑になる。良いことだから無制限に増やしてよいわけではない。
第五は、給食マネジメントの不在である。収支、人員、栄養基準、献立、調達、生産、衛生、設備を一体で管理し、方向を決める人材がいなければ、各担当者がそれぞれ努力しても部門全体は変わらない。
五つの問題は連鎖している
五重苦は、同じ重さの問題が五つ並んでいるのではない。給食料報酬の抑制、働き手不足、運営コスト上昇という外部からの圧力に、食事の多様化・個別化による内部負荷が加わっている。そして、それらを調整する給食マネジメントが不足していることが、問題をさらに深刻にしている。
収入が増えなければ、賃金や設備への投資が難しくなる。人が集まらなければ、一人当たりの負担が増える。複雑な食事対応によって必要な人員や作業時間が増えれば、さらにコストが上がる。この連鎖を止めなければ、どれか一つを改善しても効果は限定的である。
解決策も一つの仕組みとして考える
給食料報酬の増額は、最優先で求めなければならない。しかし、増額だけで五重苦が解消するわけではない。内部で変えられる部分にも同時に手を付ける必要がある。
栄養基準と食種を整理し、献立をグループ化する。治療上必要な個別対応と、共通化できる対応を分ける。完調品などの外製品を適切に組み合わせ、共同購入や地域での共同生産も検討する。限られた人員で安全に食事を提供できるよう、業務全体を再設計しなければならない。
その中心を担うのが給食マネジメントである。収入、支出、必要人員、生産性、品質、安全性について目標を定め、実績を確認し、改善を続ける。調理方式や機器を選ぶだけではなく、給食事業全体を経営する視点が必要である。
五重苦を一枚に整理すると、解決の中心に置くべきものが見えてくる。外部に制度改革を求めながら、内部では病院食の簡素化、外製品の活用、地域での集約化を進める。そして、それらを全体最適の視点で動かす人材を育てる。この組み合わせによって初めて、持続可能な給食システムへの転換が可能になる。
※HFSA News Letter 第20号の内容をもとに、普遍的なコラムとして再構成。
窪田 伸
株式会社ミールシステム 取締役会長
一般社団法人ヘルスケアフードサービスシステム協会 代表理事
1976〜2005年株式会社セントラルユニに勤務。
1980年〜1982年宮川フードサービス研究所に出向。
1994年に国内初のクックチルシステムをJA札幌厚生病院に納入。
1998年には国内初のニュークックチルシステムを柳原病院に納入。
2004年国内最大級のニュークックチルシステムを福井県立病院に納入。
2005年株式会社ミールシステム設立、代表取締役に就任、2018年同社取締役会長に就任。
2020年一般社団法人ヘルスケアフードサービスシステム協会 設立、代表理事就任。
2014年〜2022年一般社団法人日本能率協会「HOSPE×Japan」病院・福祉給食セミナーコーディネーター
2014年〜2016年一般社団法人日本フードビジネスコンサルタント協会理事
2019年〜2020年ヒトタ食品株氏会社取締役
