「食事を出せば出すほど赤字になる。何とかならないか」
病院・介護施設の給食現場で、繰り返し聞かれる言葉である。
一般の商品であれば、仕入価格や人件費が上がれば販売価格に反映できる。しかし、病院・介護給食の収入は制度上、大きく動かしにくい。一方で、食材費、人件費、光熱水費、委託費は上昇を続けている。
さらに、1日3食・365日の運営に加え、食種や個別対応が増え、多品種少量生産が常態化している。食数が増えてもスケールメリットが働かず、むしろ人手と作業が増えてしまう。これが「食事を出すほど赤字になる」構造の正体である。
赤字は現場の努力不足ではない
給食部門は、次の「5重苦」を抱えている。
1.給食料収入が抑制されている
2.働き手が不足している
3.食材費や人件費などの運営コストが上昇している
4.食事の多様化・個別化が進んでいる
5.給食経営全体を管理する機能が弱い
この状況を、安い食材への変更や現場職員の頑張りだけで乗り切ることには限界がある。過度なコスト削減は、食事の質や安全性を損ない、離職を増やす危険もある。
必要なのは、個々の努力ではなく、給食システム全体の見直しである。
変革は「見える化」から始まる
まず把握すべきは、1食当たりの収入と支出である。
食材費、人件費、委託費、水光熱費に加え、100食を提供するために何時間の労働が必要なのか、食種はいくつあるのか、個別コメントや形態加工がどれだけ発生しているのかを明らかにする。
数字が見えなければ、どの業務を残し、どこを変えるべきか判断できない。
次に、治療上必要な個別対応と、慣習として積み重なった例外を分ける。栄養基準、食種、展開献立、禁止食品、形態加工などを整理・標準化し、必要以上の複雑さを減らしていく。
シンプル化とは、患者サービスを切り捨てることではない。限られた人材と時間を、本当に必要な栄養管理へ振り向けるための手段である。
施設規模に合った生産方式を選ぶ
小規模施設では完調品を活用したアッセンブリー方式、中・大規模施設では院内調理と外部生産を組み合わせるハイブリッド方式、複数施設を運営する法人では共同購入やセントラルキッチンによる一元化が選択肢となる。
ただし、完調品、セントラルキッチン、直営化、委託化のいずれにも万能の正解はない。標準化しないまま新しい仕組みを導入すれば、かえって工程とコストが増える可能性がある。
生産方式は、目的ではなく手段である。
年間約1,744万円を改善した事例
ある社会福祉法人の特養等3施設では、年間約7,790万円の給食料収入に対し、支出は約1億1,096万円、年間赤字は約3,306万円であった。
完調品の導入、直営化、人員体制の見直しを行った結果、支出は約9,352万円まで減少し、年間赤字は約1,562万円となった。改善額は年間約1,744万円である。
重要なのは、大幅に改善しても赤字が残ったという点である。施設規模や制度上の制約によっては、内部努力だけで収支均衡に到達できない場合もある。
だからこそ、給食料収入の見直しを求めることと、施設自らが運営構造を変えることを、同時に進めなければならない。
給食は大切だから、赤字でも仕方がないのではない。
大切なサービスだからこそ、食事を提供するほど経営を傷める構造を放置せず、将来にわたって続けられる仕組みに変える必要がある。
※HFSA News Letter 第18・19・20号の内容をもとに、普遍的なコラムとして再構成。